牛や馬、人と小型機械を組み合わせた「ハイブリッド林業」で目指す、持続可能な森づくり。

NPO法人しんりん

スタッフ 松山満紀さん

鳴子温泉郷を擁する宮城県大崎市で、森林の再生と地域の活性化を目的に、サスティナブル(持続可能)な森づくりと人材育成を行っている「NPO法人しんりん」。荒廃した森林を長期にわたり整備していくことで、山と地域に恵みが循環するモデルづくりに取り組んでいます。

お話を伺った人

松山満紀さん
「NPO法人しんりん」スタッフ。千葉県出身。東京で映像関係の会社に勤めていたが、しんりんの「持続可能な森づくり」の考え方に共感し転職。大崎市鳴子温泉在住。

聞き手

西尾由香利
サンポット株式会社 技術部開発課所属。
ペレットストーブの開発リーダーを務める。
間伐や下草刈り、植林など地道な作業によって徐々に再生しつつあるエコラの森。

かつては「どろぼう山」と呼ばれていた「エコラの森」

宮城県北西部に位置する大崎市。1000年の歴史を持つ東北を代表する温泉郷・鳴子温泉のあるその街に、「NPO法人しんりん」の活動拠点「エコラの森」はあります。
松山:平成の初め頃、この周辺にリゾート開発の話が持ち上がったんです。しかしその後、バブルが弾けて開発は立ち消えに。その際、山の木が無計画に伐られてしまったんです。樹齢100年を超える立派な木もありましたが、残ったのは切り株だけ。禿山になった無残な姿を見て、地域の人たちは「どろぼう山」と呼んでいたそうです。
山はそのまま放置され、次第に荒れていきます。そんな中、産廃業者による買い取りの話が持ち上がり…。
松山:山のすぐそばには川渡温泉街もありますし、鳴子温泉への影響も懸念され、地元では反対運動が起こりました。その流れのなかで、現在「しんりん」の理事長を務める大場隆博に声がかかったんです。
そこで「しんりん」はその山を60年間整備する長期協定を結び、荒れた森の再生に着手します。2013年には「NPO法人しんりん」を設立。
「エコラの森」と名付けられた約260haの山で、その活動を本格化させていきます。
松山:森林資源の活用促進による持続可能な社会の実現を目指す「日本の森バイオマスネットワーク」や、木を使った家の提案や木製家具の製造なども行う住宅会社「サスティナライフ森の家」、製材所「栗駒木材」など、木材の活用に取り組む宮城県内の団体や企業とも連携しながら、エコラの森の再生を行っています。
森の再生のため、具体的にはどんな作業をしているのですか?
松山:現在「しんりん」のスタッフは9名。そのうち8名が「木こり」として森に入っています。春から秋口にかけては下草刈りや植林、冬場は間伐が主な作業です。4頭のジャージー牛と、木曽馬、寒立馬の4頭の馬も敷地内に放し飼いにしていて、彼らも下草刈りに一役買っているんですよ。馬たちは集材もするんです。
牛や馬の活用をはじめ、「しんりん」では昔ながらの森林保全のやり方を大切にしているそうです。
松山:木が水を下ろす寒い時期に間伐するのも、「伐り旬に伐る」という昔ながらの知恵。木が水を吸い上げている時期に切ると、傷もつきやすいし乾燥もしづらく、質のいい材が取れないんです。また「しんりん」では、山で使う機械は5t以下と決め、作業路まで伐った木を集めるのには馬を使っています。通常は木材を運び出す機械やトラックを入れるために道を作るんですが、6m幅の道を作るためには余計に木を伐らなくてはなりません。なるべく山に負担をかけず、元に戻せることが重要だと考えています。
下草刈りに貢献する牛や馬も大切なスタッフ。普段はエコラの森に放牧されています。
作業をしていると、ひょっこりとそのかわいらしい姿を現わすのだとか。
間伐によって伐られた木は建材として、また建材にならないものは燃料用のまきとしても出荷。
得られた利益は再び森の保全に使われます。

一度人が手をかけた森は、手を入れ続けなくてはならない

戦中の必要物資や戦後の復興資材を確保するため、大量の森林伐採が行われたわが国。昭和20年代〜40年代には伐採跡地への植林が進められ、ピーク時には毎年40万haを超える植林が実施されました。現在、日本の森林面積の約4割を人工林が占めています。
松山:エコラの森もそうですが、私たちが普段目にする山や森のほとんどは人の手が入った人工林です。一度人が手をかけた森は、手をかけなくなるとどんどん荒れていきます。日本は森林大国といわれていますが、建築に使われる国産材はわずかです。
現在の国産材の自給率は30%未満といわれています。
松山:国産材や地元の材がもっと使われることで、地元にお金が入り、それが森の保全に使われ、さらに携わる人たちにも還元され、ひいては地域の活性化にもつながっていくと私たちは考えています。目指すのは、「山にお金が返る仕組みづくり」。エコラの森を含め地元で育った木を地元で製材し、建築現場へダイレクトに届ける、というシステムを構築するのが最終的な目標です。
持続可能な森づくり、社会づくりに共鳴する団体や企業とともに発行している情報誌やパンフレット。
情報発信や啓蒙活動に一役買っています。

さまざまな活動を通して伝える、森の大切さ

「しんりん」は、エコラの森の再生のほかにも、さまざまな活動を通して森の大切さを多くの人に伝えようとしています。
松山:2014年には、東鳴子温泉にある大沼旅館とともに「湯守の森」プロジェクトを立ち上げました。森を健康な状態に保つことが、これから先も豊かなお湯を得ることにつながるという、地球の循環や里山の循環に注目した活動です。スギなど植林された木々を少し強めに間伐し、もともとその森にある広葉樹の成長を促し、かつてあった自然な姿を取り戻すことを目指しています。最近ではイタヤカエデがぐんぐん育っていて、いずれは鳴子温泉産のメープルシロップが採れるんじゃないかって楽しみにしてるんですよ。
湯守の森を会場に行う講座やイベントも好評だそうですね。
松山:代表的なのが「板倉マイスター講座」です。講座では、木の伐採から製材、部材の刻み、そして実際に建物を建てるところまで、体験しながら板倉構法を学びます。板倉構法とは、神社のお社などにも用いられている、壁材に横板を使う古来からある構法です。講師の一人である筑波大学名誉教授の安藤邦廣さんは鳴子出身。鳴子温泉が産湯という方で、構法のみならず、世界各地に見られる板倉構法の建物や木造建築に関わるお話が聞けるのも人気の理由です。
ほかにも、収益が森の保全に使われる地域通貨「モリ券」の発行や、東松島や大島、仙台湾で進む防風林の整備といった復興事業にも携わる「しんりん」。その活動と目的は徐々に地域にも浸透してきています。そして、再生を手がけるエコラの森にも目に見える変化が…。
松山:エコラの森の再生に取り組み始めて約10年。「しんりん」を立ち上げ、山に毎日人が入るようになり5年。特にこの5年の再生ぶりには目を見張るものがあります。やはり、森は人の手をかけてこそなのだと実感しています。禿山になってしまったところに植樹し、手入れをして、成長を促す。育てた材を建築に使い、その利益を森と地域に還元する。そんな循環型の森づくりと社会づくりを、これからも一層進めていきたいと考えています。
エコラの森にもともとあったセンターハウスを改修。遠方から森林体験や見学に訪れた人にも使われています。
週末には、大場代表の子どもさんたちもエコラの森で過ごすことが多いそう。
慣れ親しんだエコラの森。ゲストが来た際には案内役も務めてくれます。
取材を終えて
260haと広大な敷地のエコラの森。調べると、東京ディズニーリゾート(ランド+シー)2.6パーク分、もしくは、東京ドーム55個分に相当するようです。今回は、森のごく手前側、山土場までご案内していただきました。その道のりだけでも、幼少の頃を思い出すようなワクワク感を味わうことができ、個人的にはとても感激しました。
放置されていたこの森へ、光や風が入るようになるまでまだまだかかるとのこと。ひとたび放置され、荒廃しかけた山を再び取り戻すには、労力と時間が必要なことを実感します。