目指したのは、「遠野式・循環型林産業システム」。

森林(もり)のくに遠野・協同機構

代表理事 白岩久男さん(集成材生産会社「遠野グルーラム」代表)
事務局 佐々木徹さん(遠野市農林畜産部林業振興課課長)

森林の整備・育成、原木を取り扱う森林組合を始め、製材、乾燥、集成材生産などの木材加工、さらには建具や家具製造、住宅製造会社が軒を連ねる、遠野市にある「木工団地」。平成17年、この木工団地に入居する事業体と、森や木に携わる人材育成を目的とした遠野高等職業訓練校などで構成される「森林のくに遠野・協同機構」が誕生しました。「森の保全、原木供給から製品まで」を同敷地内でかなえる、全国でも珍しい林産業の総合システム。立ち上げの理念、そして今後の展望を聞きました。

お話を伺った人

白岩久男さん
集成材生産会社「遠野グルーラム」代表。
「森林のくに遠野・協同機構」代表理事。
佐々木徹さん
遠野市農林畜産部林業振興課課長。
「森林のくに遠野・協同機構」事務局。

聞き手

西尾由香利
サンポット株式会社 技術部開発課所属。
ペレットストーブの開発リーダーを務める。
白岩理事が代表を務める、集成材製造会社「遠野グルーラム」。
工場自体にも木材が多用されていて、工場内には木の香りが濃厚に漂います。

森林保全や木材加工に携わる事業体が一堂に集う、遠野林産業の拠点

森林が市の総面積の約83%を占める、県内有数の林業地帯である遠野市。木工団地(遠野地域木材総合供給モデル基地)には、そんな遠野市で木に関わる事業を展開する9つの事業体と、高等職業訓練校、誘致企業などが入居しています。
佐々木:木工団地は、平成5年から15年までの10年間を費やし整備されました。原木を取り扱う「遠野地方森林組合」を始め、製材会社「リッチヒル遠野」、木材の乾燥加工を行う「遠野木材工業」、集成材を製造する「遠野グルーラム」、プレカット加工を行う「遠野木材加工事業」、建具や内外装材を手がける「ノッチ・アート遠野」、家具を製造する「北上山地家具製作」、住宅製造会社「リンデンバウム遠野」、木質チップを製造する「遠野バイオエナジー」など、原木から加工、製品化までを担う工場が同敷地内で稼働しています。
「遠野グルーラム」では県内はもちろん、全国からの注文を受け、集成材を製造しています。
平成17年には、これらの事業体と高等職業訓練校、また市の林業窓口業務と団地内の情報提供を行う「森林総合センター」で構成される、「森林のくに遠野・協同機構」が設立されました。
白岩:森を整備・育成し、原木を伐り出し、さらに加工までを一ヵ所で行うことのできる事業体の集合施設は、全国でも珍しいものだと思います。
「森林のくに遠野」が目指すものは何ですか?
佐々木:大きな目的は、木材の需要拡大です。遠野の木を遠野で加工し、さまざまな形に製品化することで、高い付加価値をつけ、需要の拡大につなげていきたいと考えています。また同敷地内に木材加工の一連の流れを構築することで、各事業体が連携した合理的な生産体制、輸送費軽減などのコストカットも期待できます。
白岩:「森林のくに遠野」では月に一度、定例会を開いています。それぞれの事業体が今手掛けている仕事、市場の状況などさまざまな情報交換ができる場です。横の連携を図ることができるのも、協同機構のメリットだと思います。
佐々木:現状、各事業体は遠野産の木のみを取り扱っているわけではありませんが、「地元の木を地元で加工し、製品化していく」ことも、協同機構の大きな目的のひとつです。国産材の使用を推進していこうという動きのなか、しっかりしたトレーサビリティーは、製品のピーアールポイントにもなります。さらにそこで得られた利益をもとに、新たに木を植え、育て、森を守る。そんな「循環型林産業」のサイクルを、「森林のくに遠野」を中心に確立していけたらと考えています。
また「森林のくに遠野」は、地元の「雇用の場」としても大きな役割を果たしています。
佐々木:誘致企業を含めると、木工団地では約200人の方が働いています。比較的若い人が多いですね。
白岩:地元の人が中心ですが、林産業に携わりたいと市外から移り住む人もいます。
佐々木:そんな人たちがこの先もずっとここに住み、働いていけるような場所にしたいと思っているんです。
(写真上)「北上山地家具製作」が手がける木製ミニハウス。広さや仕様もさまざま選べ、店舗やセカンドハウス、子ども部屋などに活用されているそう。
(写真左下)木工団地内で出た木の皮や端材、間伐作業などで出た小径木などは、「遠野バイオエナジー」で木質チップに加工され、団地内や市内の観光施設で燃料として使われています。

遠野の地が育む、強く、そしてぬくもりにあふれた木材

冷涼な気候の遠野。目の詰まった、「強い木」が育つといいます。
佐々木:現在では取り扱いが少なくなりましたが、遠野には「紅カラ」と呼ばれるカラマツが多くあり、年月を経るごとに赤みがかってくるその美しさが評価されていました。紅カラを使用した集成材は、遠野市内の小中学校などの公共施設に使われています。
白岩:遠野の木は寒い中ゆっくりと育つので、年輪が詰まっていて強度があるんです。そんな「強さ」を見込んで、遠野の木を使いたいという人もいます。
東日本大震災で被災し新築が進められている沿岸地域の学校や、現在建設中の遠野市役所などにも、「森林のくに遠野」の各事業体が手がける製品が使用されています。
白岩:木造の校舎だと、そこで過ごす子どもの情緒が安定するという調査結果もあるようです。かつて木造だった校舎が鉄筋やコンクリートへと変わり、今また、木造の良さが改めて見直されているのはうれしいですね。平成11年には、東京大学農学部の弥生講堂建設に、遠野の木が構造材として使われました。100年後には解体され、木の経年変化を調べる研究材料にもなるそうです。
佐々木:協同機構のなかには、構造材だけでなく、子ども達が使う机や椅子、ロッカーなどを製作している会社もあります。また公共の建物だけでなく、地場産材と遠野大工に受け継がれる伝統の技が融合して生まれた「遠野住宅」を提案する住宅会社もあります。
白岩: 最近では全国的に、公共施設建設は「地産地消」が重視されているようです。私の会社でも、その建物を建てる地域の材が運ばれてきて、それを材料に集成材を作ってほしいという注文を受けています。遠野の木工団地には、伐り出しから加工、製品化までを地元ですべて行える事業体がそろっていますので、まさに「地産地消」がかなえられる環境です。もちろん、遠野の木を使った製品を全国へという気持ちはありますが、一方で県内での遠野木材のシェアを伸ばしていきたいとも考えています。
敷地内にある森林総合センターでは、子ども達を対象にした木工教室も開かれています。
佐々木:豊かな森に囲まれた遠野市で育つ子ども達。幼いうちから、実際に木に触れたりものづくりをすることで、森に親しみを感じ、その大切さを知ってほしいと思い開催しています。この経験をもとに、いずれ遠野の林産業に携わるような人が出てくれればいいですね。
「北上山地家具製作」では、子ども用の机や椅子、遊具なども製作しています。
プレカット加工を行う「遠野木材加工事業」。
積み上げられた加工材には、沿岸地域に新築される小学校の名前が記してありました。
加工を待つたくさんの木材が集積されている「貯木場」。
取材を終えて
馬搬が有名で、森林資源の豊富な遠野。遠野にこんなに大きな林業関係施設、工場の団地があるとは知らずにいました。森林総合センターは、もっと活用されても良いのでは…と思うほど広い建物です。
今回見学させていただいた「遠野グルーラム」さん、「北上山地家具製作」さんにて加工中の製品には、木造校舎として新築予定の沿岸被災地の学校名が明記されていました。
地域で育まれた森の恵みを利用して製材・加工された木材。温かみのある木に囲まれて過ごす新校舎での学校生活がより豊かなものであって欲しいと思った取材でした。