豊かな自然資源を活用し、一歩一歩、着実にすすめる理想の町づくり。

葛巻町

町長 鈴木重男さん
前町長 中村哲雄さん

ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」というキャッチフレーズで知られる、岩手県北の町・葛巻町。町の面積の約86%を森林が占める葛巻町は、文字どおり「森とともに生きてきた」町でもあります。地域の歩んできた歴史と、もともと持つ自然資源を最大限に活用した町づくりは、過疎自治体の成功モデルとして「奇跡の町」と呼ばれるようにまでなりました。ここに至るまでの道のりと背景を、現葛巻町長の鈴木重男さんと、前町長の中村哲雄さんに聞きました。

お話を伺った人

鈴木重男さん
1955年葛巻町生まれ。葛巻高校を卒業後、葛巻町役場に就職。特用林産課長、事業部長、くずまきワイン常務取締役、葛巻町畜産開発公社専務理事などを経て、2007年より現職。
中村哲雄さん
1948年葛巻町生まれ。日本大学獣医学科卒業葛巻町役場畜担当、葛巻町畜産開発公社専務理事を経て、1999年より2期8年葛巻町長を務める。

聞き手

西尾由香利
サンポット株式会社 技術部開発課所属。
ペレットストーブの開発リーダーを務める。

地球規模の課題改善に貢献できる町に

町の面積の約86%を森林が占める葛巻町。森林との関わりは、町の歴史そのものといっていいほどです。
中村:四方を急峻な山々に囲まれ、冷涼な気候の葛巻町は、恵まれた土地では決してありませんでした。昭和30年、旧葛巻町と江刈村、田部村が合併して誕生した新葛巻町の初代町長に就任した遠藤喜兵衛町長は、葛巻町の基幹産業を「酪農と林業」と位置づけ、その推進に力を入れました。酪農については山地を切り開き牧草地とし、ホルスタインの増殖を奨励。また林業については、「葛巻で他に勝るものは広大な山林」「子や孫のために手入れを怠るな」と唱え植林を進め、その振興に努めました。
1950(昭和25)年代頃まで葛巻町は、木炭王国岩手を支える木炭の主要産地でした。家庭の主なエネルギー源が木炭だった時代、葛巻は都市部の暮らしを支えたエネルギー供給基地だったということです。同時に林業は、葛巻の主力産業として町を支えました。遠藤町長は事あるごとに「切ったら植えろ」と、森の重要性を説かれていたといいます。
(右上)町内に9ヵ所ある「企業の森」の前に立つ、前葛巻町長の中村さん
(左上)間伐材を原料にしたチップを利用して発電する、木質バイオマスガス化発電設備
(左下)間伐材を用いた集成材をつくる製材所
酪農と林業という、自然と大きな関わりを持つ1次産業を基幹産業に据えた町づくりを行ってきた葛巻町。全国に先駆けて、クリーンエネルギーへの取り組みにも着手しました。
中村:1990年代は、世界的な環境破壊や食糧問題が盛んに叫ばれた時期でした。地球温暖化や日本の低い食料自給率などを知り、私も大きな衝撃を受けました。そんななか次第に、地域の豊かな自然資源をいかし、「食糧・環境・エネルギー」という地球規模の課題改善に貢献できるような町に葛巻をしていきたいと考えるようになりました。また葛巻は、それができるだけの資源を持った町だと思いました。
平成10年、葛巻町は「新エネルギービジョン」を策定。翌年町長に就任した中村さんは、「新エネルギーの町・くずまき」を宣言します。
中村:平成11年に風力発電、平成12年に太陽光発電、平成15年には基幹産業のひとつである酪農の副産物・家畜の排泄物を利用した畜ふんバイオマス発電、そして平成17年には、間伐材を活用した木質バイオマスガス化発電設備が稼働。地域が持つ資源を活用した、クリーンエネルギーの町への取り組みを加速させていきました。現在の葛巻町のエネルギー自給率は166%を誇ります。
これらの取り組みは、地域資源をいかした産業振興であるとともに、その根本には「食糧・環境・エネルギー」という課題を葛巻から改善していきたいという思いがありました。
同時に葛巻では、森林保全にも独自のアプローチで取り組んできました。
中村:製炭業が衰退した後も、林業が基幹産業であることに変わりはありません。カラマツは建材として、広葉樹はチップとして利用されています。 2006年からは、民間企業から出資を募り町内に社有林を整備し、その管理を葛巻町森林組合が行う「企業の森」というプロジェクトを開始しました。企業の森は現在9ヵ所。その面積は300ha以上に及び、都市との交流や環境教育の舞台として活用されています。また町産のカラマツを「岩手くずまき高原カラマツ」としてブランド化し、販売促進につなげています。これらの取り組みは高く評価され、2007年には、葛巻町森林組合が「山村力(やまぢから)コンクール」(財団法人・都市農山漁村交流活性化機構主催)で最高賞の林野庁長官賞を受賞しました。
さらに、カラマツを使った集成材を製造する製材所が、その材を使う建設会社のサポートを受け開業。生産地や製造過程を明確化させた、トレーサビリティーを実現した建材として評価を受けています。
次世代を担う子どもたちに対する、環境教育にも力を入れているそうですね。
中村:毎年5月には植樹祭、冬には育樹祭を行い、子どもたちに森林の大切さを伝える環境教育イベントを開催しています。また、東京にある子どものための職業体験施設「キッザニア東京」の体験プログラムに葛巻の木材を提供している縁で、都会の子どもたちを葛巻に招き、地元の子どもたちとの交流イベントも実施しています。
地域が長年にわたり大切に培ってきた1次産業と自然の恵みをいかした町づくりを歴代町長が受け継ぎ、発展させてきた葛巻町。中村前町長は、そこにクリーンエネルギーという新たな取り組みを組み込むことで、今や全国にその名を知られる「ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」の基盤を確立しました。
(右上)学校や公民館などには、太陽光発電パネルと畜電池を設置。災害に強い町を目指した整備も進んでいます。
(下)公共施設、老人福祉施設の暖房、温水プールの加温などに、ペレットボイラーが活用されています。ものづくり体験などができ、地産地消レストランもある「森のこだま館」にはサンポット製のペレットボイラーが設置されています。

一歩ずつ歩んできた道の先にあったのが、クリーンエネルギーだった

2007年、中村前町長の後を受け、葛巻町長に就任した鈴木町長。歴代町長が推し進めてきた「酪農と林業」を基幹産業に掲げたクリーンネルギーの町づくりを継承し、さらなる発展に尽力しています。
鈴木:歯止めのない環境問題や、東日本大震災のような大きな自然災害の教訓をもとに、今、自然エネルギーに対し改めて注目が集まっています。町でも、太陽光発電設備や木質バイオマス熱利用設備など、自然エネルギーを活用した設備を家庭に導入する際に利用できる補助金制度を整備。クリーンエネルギーの普及をサポートしています。
林業振興を推し進めてきた葛巻町でも一時、ほとんどの家で薪ストーブが使われなくなった時期がありました。けれど近年、家を新築したりリフォームする際に薪ストーブやペレットストーブを導入するお宅が増えました。家々の煙突から煙が立ち上る様子は、見ていて本当に好ましい風景だなと思いますね。
「クリーンエネルギーの町」として、全国的に高い評価を受ける葛巻町。その成功の理由を、鈴木町長はどのように考えているのでしょうか。
鈴木:葛巻町はずっと、1次産業である酪農と林業を基幹産業と位置づけ、その振興に努めてきました。地道にこつこつと歩んできた道の上に、現在の葛巻があるのだと思います。
例えば、主要な町産材であるカラマツを商品価値のある材に育てるためには、間伐作業が必要となります。間伐の際に出た小径木の多くは山林に放置されていましたが、これをどうにか有効活用できないかと取り組んだのが、間伐材をチップに加工し利用する木質バイオマスガス化発電です。また間伐材は、集成材の材料としても活用されています。チップ製造の際に出る木の皮(バーク)は木質ペレットや家畜の敷材に、家畜の排せつ物はバイオガスとして活用することで、エネルギー生産や良質な肥料生産へとつながっています。
このように、これまで価値のないものとされてきたものを見直し、資源として活用したのが、葛巻のクリーンエネルギーなんです。風力発電にしてもそう。風の強い山のてっぺんなんて居住地としての価値はないけれど、そこに吹く強風が風車を回し、電気を生み出してくれます。もともと地域にあった資源に価値を見出し活用し、その恩恵を町の発展や産業振興に役立てるという、まさに循環型社会を実現しているといえます。
2007年より葛巻町長を務める鈴木重男町長。取材の際には、町の自慢の「くずまき高原飲むヨーグルト」を自ら振舞ってくださいました。
葛巻町の取り組みは国内外から注目を集め、視察に訪れる人たちは年間300組に及ぶといいます。
鈴木:当初、クリーンエネルギーへの取り組みへの評価は低いものでした。しかし、葛巻という小さな農山村の持っている大きな力を「実証展示する」というつもりで取り組みました。不便だ、遅れていると言われてきた農山村ですが、実は環境を守る豊かな森林があり、食糧を自給する土地があり、そしてエネルギーを生み出す資源まである豊かな場所。1次産業の振興とクリーンエネルギーの事業化を両立して展開してきた葛巻町は、農山村に限りない可能性があることを社会に証明できたのだと思います。
今後の展望をお聞かせください。
鈴木:日本人はもっと、食糧や環境問題、エネルギー問題に真剣に取り組むべきだと思います。それぞれの持つ資源をいかした、町づくり・地域づくりが必要ですし、農山村と都市との連携も今後より重要になっていくと思います。
町としての目下の課題は、若者の定住促進です。そのために、情報基盤の整備や災害に強い町づくり、子育て支援などの整備を進めてきました。
また、町に暮らす人が安定した収入を得るための企業誘致にも積極的に取り組んでいます。しかし、やはりそこでこだわるのは、葛巻の資源をよく理解し、活用してくれる企業であること。そうであることが、町の資源を守り、持続可能な社会や地域を保つことにつながると考えるからです。
今後も、葛巻という地域が持つ機能や資源を活用した町づくりを、一歩ずつ、着実に進めていきたいと思います。
くずまきワインのショッピングも楽しめる「森の館ウッディ」(右上)や町立図書館(右下)には、サンポット製のペレットストーブが設置されています。
(左下)町のコミュニティ施設の多くに、町産のカラマツやアカマツの集成材が使われています。
取材を終えて
サンポットのペレットストーブは、生産・販売を開始した2003年(平成15年)当時より、葛巻町役場庁舎をはじめ、個人宅様、企業様など町内各所に多くご採用いただき、葛巻町の皆様に長くご愛顧いただいております。サンポットに関わる林業やエネルギーだけでなく、歴史や酪農、まち基盤整備に至る広い分野でのお話を頂き、町民の日々の生活と、町の未来を第一に思う心が伝わってきました。その即実行力とスピードには、我々企業も負けられないと奮起させられます。「着々と」「一歩一歩」を大事にする、誠実かつ前向きな葛巻町の皆様と、今後とも長くお付き合いさせていただきたいと思っております。