「外からの視点」を取り入れながら、林業を魅力ある「地場産業」に育て上げたい。

釜石地方森林組合

参事 高橋幸男さん
支援員 手塚さや香さん(釜石リージョナルコーディネーター)

釜石・大槌エリアの森林管理を行う釜石地方森林組合。林業の担い手を育成するための林業スクールを開校するなど、独自の取り組みが注目を集めています。林業を、木材生産だけでなく、地域を盛り立て、地域の魅力発信をリードするような地場産業に育て上げたい‐。
そんな思いを胸に林業に向き合う、釜石地方森林組合の参事・高橋幸男さんと、支援員として働く手塚さや香さんにお話を聞きました。

お話を伺った人

高橋幸男さん
1964年山田町生まれ。実家の家業は漁師。 1983年、19歳のときに釜石地方森林組合に入職。2006年より現職。
手塚さや香さん
1979年埼玉県生まれ。毎日新聞社に記者として勤務した後、2014年より釜石のまちづくりをサポートする「釜援隊」に参加。同年から、釜石リージョナルコーディネーター(復興支援員)として、釜石地方森林組合に勤務。

聞き手

西尾由香利
サンポット株式会社 技術部開発課所属。
ペレットストーブの開発リーダーを務める。

豊かな釜石の森林を守り・育てるために、森林組合ができること

釜石地方森林組合の主な業務は間伐作業。釜石エリアの豊かな森林資源を将来にわたり維持・活用していくための、「山の手入れ」を行っています。
高橋:釜石の森林には、「鉄の街」を支えてきた歴史があります。世界遺産に登録された「橋野鉄鉱山」に代表されるように、製鉄の燃料として、かつては木炭が使われていました。
釜石の山と人々との関係は長い歴史を持ちます。先人が育くんできた森を守っていくために、山の手入れは欠かせません。木を伐り、枝を落とし、下草を刈り、苗を植える。地域の森林を将来にわたり活用していく。それが森林組合の大きな使命です。
釜石地方森林組合は、2011年3月に発生した東日本大震災で大きな被害を受けました。役職員5名の尊い命が失われ、無事だった職員の多くも被災。海に近かった組合事務所は、津波により破壊されました。
高橋:正直、釜石地方森林組合はなくなるものと思っていました。しかし、山主の皆さんの応援の声や、多くの企業からのご支援、そして亡くなった職員の遺族の皆さんの後押しを受け、復旧のスタートラインに立てました。
釜石エリアの森林に植えられているのは主に杉。約20haの森林の間伐作業に、2人がかりで数ヵ月かかります。
震災後、新たに9名の職員が入職。昨年6月には新事務所が完成しました。
高橋:林業は、日雇いが普通という時代がありました。けれど、「職員」という形でしっかり雇用していかないと林業そのものがうまくいかないのではないかと考え、震災前から雇用に関しては積極的に取り組んでいたんです。震災後は特に、地域の皆さんの力で組合が復活し存続できることになったのだから、より一層、地域の雇用の場であるべきだと考えるようになりました。
震災後に入職した職員の皆さんの経歴はさまざま。学生、銀行員、病院職員、運送業…。林業という新たなフィールドに飛び込んだ背景には、ふるさとへの思いがあったといいます。
高橋:震災を機にふるさとに戻り、復興の一助になりたいと地元で職を探していた者も多いですね。そんな志を持つ人たちの雇用の受け皿になることも、組合の大きな役割だと思っています。
2015年には、世界有数の金融機関・バークレイズグループの支援を受け、地域の林業の担い手を育成するための「釜石大槌バークレイズ林業スクール」を開校。全国でも珍しい取り組みが注目されています。
手塚:第1期は、毎月1回、1年間の講義を通じ、林業に関する基礎知識を身につける「実践編」と、一般の参加者を募る「オープンセミナー」の2つを実施し、今年4月からの第2期はさらに短期集中の合宿形式での講座も新設します。国や県の研修制度はありますが、森林組合としてスクールを実施しているのは全国でも珍しいようです。私の組合での主な業務がこのスクールの運営なのですが、モデルケースがあったわけではなく、講師の選定からプログラムの作成まで、高橋さんたち組合の皆さんと相談しながら一から作り上げました。
スクールが目指すもの。それは、技術の習得だけはありません。
高橋:スクールでは技術はもちろん、地域と林業の関わり方なども学びます。広い視野で森林や林業について理解を深められることは、これから林業に携わる人たちにとって貴重な機会だと思います。
2015年6月に完成した新事務所は、釜石地方森林組合も開発に携わった、釜石エリアで育った木材を材料とする柱角材連結パネルを使用して建てられました。

地域にもっと関わりたい。新聞記者から林業の世界へ

「釜援隊」のリージョナルコーディネーター(復興支援員)として、釜石森林組合に派遣されている手塚さん。手塚さんが、釜石地方森林組合で働くようになった経緯とは?
手塚:出身は埼玉県です。都内で学生生活を送り、2001年に毎日新聞社に入社しました。その最初の赴任地が盛岡支局だったんです。4年間を岩手県で過ごした後、東京本社や大阪本社に勤務。大阪にいた時、東日本大震災が発生しました。
震災後、取材やボランティアでたびたび岩手を訪れていたのですが、もっと近いところで取材したいと、希望を出し盛岡支局に再び配属してもらいました。1年間盛岡支局に勤務し、2014年に退職。釜石のまちづくりをサポートする団体「釜援隊」に参加し、釜石に暮らすようになりました。
退職、移住という大きな決断。そこには、どんな思いがあったのでしょう。
手塚:被災地の取材をするなかで、報道とは違う形でこの地域と関わっていきたいと思うようになりました。また、大好きな土地である岩手で、1次産業に関わる仕事がしたいとも考えていました。
そんな折、ちょうど釜援隊が、森林組合に隊員を派遣するという話があって。考えてみれば、林業も1次産業だなあと。それに高橋さんは、岩手県の林業関係者のなかでは革新的な取り組みをしていると有名な人。そういう人と仕事ができるのも楽しそうだなと思いました。
まったく別の世界から、林業の道に飛び込んだ手塚さん。林業のプロではない手塚さんが、釜石地方森林組合にもたらしたものは大きいと、高橋さんは話します。
高橋:長年林業を生業としていると、林業のことしかわからなくなるんです。新しいことになかなか踏み出せない。そんな時、外側から見てくれる人の視線は大切。別の「風」を取り込むことで、発想やアイデアがわいてきます。そんな新しい風を運んで来てくれたのが、手塚さん。
手塚さんのアイデアから生まれた、釜石産の杉を使った「枡」。1つ850円。そのうちの100円は、新たな苗を買うための基金に利用されます。オリジナルのロゴを入れることも可能。
新しい風を吹き込んだ手塚さん、その風を受け止めた高橋さん。その後、首都圏の企業を招いた林業体験の実施や、木製品の開発など、新たな取り組みが続々と生まれています。昨年には、釜石の杉を使った「枡」が商品化されました。
手塚:震災後、たくさんの企業の皆さんが、がれき撤去や復興支援のために釜石を訪れてくれました。震災から5年が経とうとしている今、今後どんな形で復興に関わっていこうかと、企業側も思案している時期なんです。
そこで考えたのが、企業に森林の管理に携わってもらうこと。被災し、大きなローンを抱え、次の植樹や山の管理が難しい山主さんに変わり、「企業の森」として、実際に植樹などの作業をしながら山の管理に力を貸してもらう。森は育つのに長い時間がかかります。だからこそ、折々に釜石を訪れ、復興の様子を感じながら、継続的に地域に関わってもらえるのではないかと。実はこの枡も、林業体験に訪れた企業から、何か記念になるものをとリクエストされたのが、開発のきっかけなんですよ。
高橋:こういう発想は手塚さんならでは。スクールの運営が主な業務だったはずが、いろんな業務を任せてしまっていますね(笑)。
林業を取り巻く環境は厳しいといわれている昨今。けれど、未来を見据える高橋さんや手塚さんの目に悲壮感はありません。
高橋:人口が減るに従い、木材の需要が減るのは確かです。けれど、新築が減ったとしても、リフォームやリノベーションなど需要は確実にあります。国産材の自給率は現在わずか27%。まだまだ余力はあるんです。実際、釜石エリアの森林管理に必要な人員は不足している状況です。
組合が率先し地域の森林資源の魅力を発信することで、釜石の山を育てよう、釜石で育った木でできた製品を使おうと言ってくれるファンを増やしていくことができれば、釜石の林業の未来は明るいと思います。同時に、組織としての基礎をしっかりつくり、働く場としての整備を進めることも、森林組合として取り組まなくてはならないことだと思います。
手塚:国が提唱する地方創生の動きに合わせ、首都圏などでは林業に興味を持つ若者も増えています。むしろ、地元へのアピールがもっと必要だなと感じています。森林組合での業務と並行して「岩手移住計画」という任意団体で、移住や定住のサポートにも取り組んでいるのですが、林業が、この地域で生活していくための雇用の場となりうるような、確固たる地場産業に育てていきたいと思っています。
林業を通して地域の魅力を発信し、釜石を訪れる人やファンを増やし、ひいては、この地を支える地場産業に成長させる。
釜石地方森林組合の取り組みは、林業の未来だけでなく、地域の未来も見据えています。
取材を終えて
私がペレットストーブの開発に取り組む理由のひとつは、身近にある森林資源をエネルギーとして利用することが、「循環の社会」につながっていくと考えているからです。何十年もかかる森の成長を見据え、資源を有効活用していこうとする釜石地方森林組合様の考え方に、大きく共感しました。 また、間伐作業の現場も見学させてもらいましたが、よりよい製品を世に送り出すための配慮や安全性への取り組みは、林業も、私が属する工業の世界も同じなのだなと感じました。